Lost & Found

October 13, 2010

現代の日本が抱える問題は、産業化の過程で失われてしまったもの、置き忘れてしまったものがたくさんあるということです。

たとえば農業。海外に製品を輸出する工業生産とその効率ばかりを重視し、自国で食べ物をつくるという基本を忘れ、その多くを輸入に頼っている。しかし日本の昔からのものづくりは、農業と密接な関係を持った「工芸」にその原点があります。

自分たちの道具を生活にあわせて自分たちの手でつくる。機械生産に頼るようになって、そのことを忘れてきてしまった。私がデザイン・プロデューサーとして農業にスポットを当ててきたのは、こうした物事の根本を考えるためです。

たとえば今回のBODWの「Detour」では、香港の古い警察署を舞台とした展示を企画しています。ここはかつて不法移民や難民を収監した場所ですが、社会の体制が変われば罪とされたことも罪ではなくなる。ビジネスのためのデザインからちょっと離れて、罪とは何か、倫理(ethics)と美学(aesthetics)をデザイナーの視点から根本的に問い直したい。

また日本からは、日本の文化の原点ともいうべき「ピュア・ウォーター」をテーマとした作品を提示します。かつて日本の集落では、水の湧き出るところに神社を置き、鎮守の森としていました。それは宗教とも違う自然崇拝です。その原点にもう一度立ち返って、未来への流れをつくっていこうというものです。

急速な近代化とともに得たもの失ったもの、その良い面も悪い面も含めて、日本は「Lost & Found」のショーケースとなりえます。日本の問題は、そのまま世界が抱える問題だと思います。そしてそれは根本から考えないと解決しない時代になってきている。今、思想と美意識をもったコンセプト・デザイン、ソシアル・デザインが必要とされています。

文明の進化で忘れられたものを問い直し、あらためて日本から、進化ではなく深化を促すような、未来観や将来の夢といったヴィジョンを持ったデザインを提案していきたいと考えています。

DETOUR
期間:2010年11月27日(土)~12月5日(日) (予定)
会場:香港市街中心地
主催:香港アンバサダー・オブ・デザイン
   http://www.detour.hk/

NOT GUILTY - Pure Water Design ▶

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